はじめに
セイバーメトリクスとはご存知でしょうか。
最近では、「マネーボール」というセイバーメトリクスを使用してメジャーリーグの貧乏球団・オークランド・アスレチックスが、プレーオフ常連の強豪チームを作り上げていくという映画で有名になりました。
セイバーメトリクスとは、野球においてデータを統計学的見地から客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える分析手法のことです。
今回は「おおきく振りかぶって」という僕が大好きな漫画を用いて、セイバーメトリクスを分かりやすく解説していきたいと思います。
おおきく振りかぶってとは
おおきく振りかぶってとは、新入生10人だけの無名の野球部、西浦高校が甲子園を目指す野球漫画です。この漫画は主人公の三橋廉(投手)が「弱気で卑屈な性格」という、他の野球漫画では見たことがないキャラ設定になっています。また、監督は通称「モモカン」と呼ばれる女の監督で指導力・統率力に優れており、ゲーム中の采配も見どころの一つです。
西浦vs桐青編(5巻)
今回はコミック6巻の夏の大会1回戦、西浦vs桐青の試合の采配を見ていきます。ちなみに桐青高校は前回の夏に大会の甲子園出場校で、西浦が勝つなんて誰も予想だにしない展開から試合が始まります。
1回表の西浦高校の攻撃は、1番の泉くんがヒットで出塁します。
ここでノーアウトランナー1塁の得点確率を見てみます。
このデータは、2004~2013年のNPBにおける得点確率(「勝てる野球の統計学 セイバーメトリクス」岩波書店より)を参考にしています。
ノーアウトランナー1塁の得点確率は40.6%。つまり、40.6%の確率で得点が入ることになります。
次に2番の栄口くんですが、モモカンから送りバントのサインが出ます。
送りバントの戦略を用いたときの、得点確率の変化は以下の通リになります。
仮に栄口くんの送りバント成功確率が100%のとき、1塁走者の泉くんが二塁に進塁するので、ワンアウト2塁の状況に変化します。ワンアウト2塁では、先ほどの表から得点確率は39.6%になります。
ここから分かるように送りバントという戦略は、得点確率をあまり変化させません(40.6%→39.6%)。むしろ、バント成功確率が下がるほど、得点確率が下がります。
栄口くんは送りバントを成功させ、ワンアウト2塁の状況で3番の巣山くん。
ここでモモカンは、またもや送りバントの指示を出します。]
ワンアウト2塁での送りバントによる得点確率の変化は、以下のようになります。
仮に巣山くんの送りバント成功確率が100%のとき、得点確率は26.5%になります。
2塁走者の泉くんが三塁に進塁するので、ツーアウト3塁の状況に変化します。
ここからワンアウト2塁での送りバントという戦略は、得点確率を下げることが分かります(39.6%→26.5%)。ですので、あまり良い戦略とは言えません。
では、モモカンの戦略はあまり良い戦略ではなかったのかというと、そうとは言い切れません。
確かに送りバントという戦略は、セイバーメトリクスではワンアウトを自ら進呈する、得点確率を下げる行為と定義されています。
しかし、今回の試合のように西浦と桐青では実力差があり、また桐青のピッチャーからヒットを打つことは難しいことが予想されます。唯一、桐青のピッチャーと勝負ができるのは、4番の田島だけです。ですので、3番の巣山の所で打たせるより、4番の田島の前に確実に点が取れる3塁の位置にランナーを進めておくことの方が得点確率が高いと、モモカンは考えたのだと思います。
おわりに
今回は得点確率を使って西浦vs桐青の1回表の攻撃を分析してみました。一般的にはワンアウト2塁での送りバントは良い戦略とは言えませんが、田島でしか得点が期待できない状況を考えると、合理的な戦略だったと言えます。